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おおやぎ推薦図書&映画
「ボルト」 2009 ディズニー ボルト [DVD] 動物が主人公として活躍するタイプの旧来からあるスタイルの活劇ですが、今回、特筆してお勧めしたい理由は、その「美術背景」にあります。 3Dアニメーションの映画でありながら、メイキングでも説明される通り、可能な限りに2Dつまり手書きの美術背景をいかに利用していくかに注力した画面作りであったというのです。 3Dでは、「光」は均一なものとして扱われ、また、それぞれの地形や街の表情に対して、コンピュータが算出する「光」は、均一で、なおかつ普遍のものである―――このことを脱却し、それぞれの街や地域に即した独自の “光の色合い・表情” を表現すべきか熟慮した。・・・その結果が、デザイナーが各地を実際に訪れ、街や地方によって異なる “光の味” を実際に体験することによって描き分けたというのですから、美術背景のあり方においては、非常に素晴らしい試みをなさっていると思います。 前回の「トレジャープラネット」に関するレビューでもひっそりと書いた通り、背景美術がコンピュータグラフィックスになって以来、色合いは統一され、画一的となり、美術背景なるものは、“難無くそれと分かる範囲で表現されるべきもの”に成り下がってしまったと言っても過言ではありません。緑で表現されれば樹木の葉、茶色で表現されれば土や砂、といった具合です。 ・・・しかし、実際の風景には、地域によって光線の具合があります。―――「智恵子抄」において、高村の妻が、「東京には空がない、阿多多羅山の上にあるのが本当の空だ」と称えたように。 ニューヨークの街区における光とか何か? ネヴァダやミネソタ、カルフォルニアにおける光とは何か? ―――そういったことを、今作ではデザイナーたちがとことんまで突き詰め、表現しているといいます。 単なる3D映画に付随する遠景の美術として見るなら、このような点には注目すべきではありません。 しかし、メイキング画像でスタッフが非常に誇らしげに語っている通り、美術背景が意識されるようであれば失敗であり、「まず、視聴者はそれと意識しないで見ていただろう」「それが我々の目指したところなのだ」と語る通り、3D全盛の現在であるからこそ、アナログ美術家の醸す世界観は重要なのだと感じさせる作品です。 3Dアーティストの方にも学ぶべき点が多い本作ですが、翻って、2D美術家の方にこそ参考にして頂きたい作品であります^^ 光が射し、影が落ち、全ての世界は色合いを持つ。 ・・・日本のアニメもゲームも、そのような美術に支えられてこれまでの発展を遂げたはず。 ただ、光があり、影があり、色がある。 改めて2度目に視ると、“ジャパニメーション”を遥かに凌駕したアナログの世界観に触れるでしょう良作です。 ▲
by genmuki
| 2010-03-31 07:05
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おおやぎ推薦図書&映画
「トレジャー・プラネット」2002 ディズニー トレジャー・プラネット [DVD] 有名冒険小説「宝島」を、ディズニー映画独特の視点で未来SFに描き起こした冒険映画。興行的には揮わなかったのか、日本での知名度はそれほど高くないのですが、ボクは強く推薦する映画です。 特筆すべきは、2002年時点での秀逸な3Dと2Dの融合。 2010年現在、日本アニメでも、メカのような物体が3Dによって表現されることはほぼ当たり前になってきましたが、それをこの映画は、10年前に、大胆かつ実験的に取り入れ、非常に完成度の高い映像を生み出しています。 特に重要なのが、未だカット毎に2Dカットと3Dカットを使い分ける日本アニメに対し、この「トレジャー・プラネット」では、最初から3Dと2Dを共存させることを目的としています。これが顕著なのが、機械の腕を持つサイボーグというキャラクターです。3Dで描かれる腕は内部のギミックに至るまで精緻に動きますが、キャラクターは基本的に2Dで作画されています。この3Dで描き出す機械部分と2D作画が、きちんと融和してひとつのキャラクターとして動いているのは素晴らしいことです。 また、主人公らが乗り込む宇宙船も基本的に3Dで作られていますが、これがスペースオペラに見られる閉鎖型の宇宙船ではなく帆船なのです―――つまり、甲板上に主人公ら2D作画されたキャラクターが立っている状態が当たり前であり、ここでは、3Dモデルとそのカメラワークに対して、2Dがそれに合うように作画されています。 (これら3Dと2Dの融合に関してはメイキング映像でも扱われています) また、通常はアニメーション作品に使うと何かと浮いてしまいがちのデジタルエフェクトが、これでもかとばかりに使用されています。デジタルエフェクトと3D2Dの融合は、全編を通して一貫されていることから、逆説的に、視聴者に違和感を与えずに作品としての統一的な視覚となっているのでしょう。 我々は学ばなければなりません―――2Dが3Dに合わせ、3Dが2Dに合わせ、アナログ作画がデジタルエフェクトに合わせ、また、デジタルエフェクトがアナログ作画に合わせて、ようやくひとつの作品世界を仕上げているこの作品に。未だ2Dと3Dを本質的に別のものであると切り離して考えている我々の貧弱と怠惰と臆病に、10年前に「トレジャー・プラネット」に取り組んだスタッフらの意欲は、きっと智慧と叱咤と勇気を与えてくれるでしょう。 演出および脚本の部分で言いますと... 無駄なセリフを極力に慎み、キャラクターの顔をアップして複雑な表情をとらせることによって上手に人物の心理を浮き彫りにしているという点でも、アニメーション作品のみならず実写ドラマ作品でも見習うべき、教科書的な作品に仕上がっています―――ややオーバーな身体の動き(ダンス等)で表現しようとする旧来のディズニーアニメよりは、この点でも日本人にも分かり易いでしょう。 物語の面からは少しばかり端折りすぎている感がするかもしれませんが、逆を言えば、できる限り無駄を取り除いてスピード感のあるストーリー展開に注力した結果でしょう。この部分でも、説明過多の傾向に陥り未だ120分を要する日本映画に対して、90分で映画を完結させようとする彼らの姿勢は教科書的です。 付け加えるなら、この「トレジャー・プラネット」の美術も秀逸です。 デジタル着彩を取り入れることによって精密さを増した代わりに色使いが画一的になった日本のアニメ・ゲーム作品に比べ、本作の美術はアナログ感覚の良さを適度に保っており、使われる色合いには実に幅があるので、模範的な美術絵本としての魅力を失わずにいます。 全体的にはややデジタル感が勝ちますが、それらは3Dとの親和性のギリギリのところだったのかもしれません。 しかし、部分的に(けれど贅沢に)3Dオブジェクトを注入した美術背景において、3Dオブジェクトにも徹底してアナログ風のテクスチャが貼られているところなどは、前述の通り、3Dと2Dの両スタッフが今後どのように関わり合うべきなのか―――その答えを端的に示していると言えるでしょう。 「トレジャー・プラネット」は、美術、作画、演出、そして3Dとデジタルエフェクトに関わる多くの方にとって、観て損はない作品であるだけでなく、間違いなくひとつの教科書にすらなるでしょう。 ▲
by genmuki
| 2010-02-16 05:03
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