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シナリオ小話 第51回 カメラを知る3

シナリオライターの観点から映像化された際のカメラワークについて知ろうという連載も3回目です。

毎度のように申し上げますが、ここでのカメラについての記載はあくまでも「シナリオでどのように書けばどのように映像化される(可能性がある)のか」について知ることによって、シナリオ執筆に活かそうというものであり、専門のカメラワーク解説ではありませんから、特にここで使っている言葉なんかを撮影さんにそのまま話しますと「何を知ったかぶりしてるんだ、全然違うよ」ということになりかねません(笑)ので、ご注意下さいネ♪

さて、以前までにカメラの「ズーム(倍率)」系と「パン(首振り)」系を紹介してきました。
シナリオライターとして知っておかねばならないカメラワークは実はそれほど多くないと考えているおおやぎですから、カメラワークの紹介は今回が最後です。今回はいくらか残りについて考察してみたいと思います。なお「カメラについて知る」は次回も続きます(予告!)。

◆ピントワーク
「ピント」とはカメラの「焦点」を指す言葉です。すでに「焦点距離」と言われるより「ピント」と言われた方が分かり易いかと思います^^
最近ではデジタル合成によって遠景・中景・前景の3つ全てにピントを合わせるような被写界深度がきわめて深い映像も可能となりましたが、一般的に言ってカメラとレンズの原理上、あるものにピントを合わせると距離の異なる他のものからはピントが外れます。このことを前提に説明しますが―――
・ピント合わせ:ある対象からピントの外れた状態から始まり、この対象へピントを合わせていく動きを言います。一般にシナリオ中で「目を凝らすと」と「よく見ると」等のように書くと、このようなカメラワークが用いられますね。言うまでもなく、視聴者に何かを認識させる効果があります。この場面では何に注目するべきなのかも明確で分かりやすい映像だと言えるでしょう。
・ピント外し:上記の「合わせ」と逆のカメラワークですが、シナリオ上の「目を離す」という記述はおおよそパン系で処理されるはずですから、これとはちょっと違います。おおよそ「目がくらむ」「よく見えない」といった演技を補完・解説する映像ではないかと思います。演技主体の視野に入り込むことによってこういうことを表現できるのも映像の最大の特徴の一つですね。
・ピントが合わない:常に対象にピントが合わないような映像を用いることによって「視力が悪い」「目がかすむ」といったことも表現できるのではないかと思います。

・・・このように、一般にシナリオ上では「演技できないものは表現できない」と言われますが、実は映像という観点でカメラワークまでを視野に入れるならば可能なのですね。
やや余談になりますが、カメラを左右に振りながら歩いている人の視野を再現しながら、ピントも合わない、なんて状況になりますと酔っ払って朦朧と歩いている様子だって再現できますね。

◆トラック
カメラを固定しておいて首を振る「パン」の動きとは別に、カメラそのものを動かす技術に「トラック」があります。
ここまで来ると、おおやぎ個人はややシナリオ上の記述との直結に思い至りません(シナリオ上で「~~」と買いたらこう撮る、という直接の関係が希薄)ので、簡単な紹介に留めます。
・追いトラック:「フォロートラック」とも言われますが、演者が移動するのに合わせてそれを追っていくカメラワークです。演者の後ろから一緒に付いていくようなカメラは街頭での取材映像等では非常に多用されます。こうすると視聴者はナレーターさんと一緒に街の中を歩いているような気分になるからですね。これとは別に、横からフォローするものもあります。歩いて行く横顔を捉え続けることができます。
・回りトラック:「回り込み」とも言われますが、対象の周囲をカメラが円形に回りながら、同時に首を対象に向け続けることによって撮影する技法です。よく円形レールの上をカメラ台車が走っているような撮影風景をご覧になるかと思いますがまさにアレです。その他、わざとではありませんが報道映像などで忙しなくインタビュー主体を追っていくと都合上の回りトラックになっているものがあります。回りトラックで撮影した映像では、対象が画面の中心で回転しているように見えますね。この映像では、対象の人物に注目が集まる以上に、背中から正面の顔に回り込むことでより心情や状況を説明したりするのに適しています。ちょっとしたことですが、例えば多数の侍が一同に会するチャンバラ劇の斬り合いシーン等では、主人公を回りトラックすることによって「誰が主人公なのか」が分かる仕組みになっています。

◆クレーンとブーム
「クレーン」も「ブーム」も長い柄を指します。クレーンまたはブームと呼ばれる梯子車のような装置の上にカメラを据えて撮影する技法全体を指し、通常のトラック撮影以上に、上からも映像を捉えたい場合などに用います。言うまでもなく、より複雑な画角での撮影を連続的に行うことができますので、一部のアクション映像に向きます。一般的な心理ドラマにも用いられることがありますし、街の狭い路地(もちろん撮影セットですが)なんかを歩く様子を捉える場合にも用いられますね。
やはりこれについても、シナリオ上で「~~」と書いたからといってクレーン撮影に直結するということはあまり考えられず、むしろシナリオ上で「これを上空から回り込むように撮影して」のように書き込む必要はありませんから注意しましょう^^;

◆その他の最新撮影技術
撮影技術も日進月歩で、日々、新たな撮影技術が開発・工夫されています。
映画「マトリックス」で話題となった「マシンガン撮影」(タイムスライス、バレットタイムとも)は、被写体の周囲に100以上ものたくさんのカメラを設置しておき、一斉に撮影をします。こうするとそれぞれのカメラから微妙に違う画角による映像(写真)が得られるわけですが、これを巧みに編集することにより、クレーンでは到底不可能である複雑なトラック撮影が可能になるものです。
また「特撮」と呼ばれる分野で古くは怪獣映画やSF映画で用いられたミニチュア撮影や特殊合成(クロマキー)等も、一見するとシナリオとは無関係のように思われますが、実は非常に濃密な関係があります。これらの撮影技術があるということを知っていれば(すでにここをご覧の皆さんはご存じでしょうけど^^;)、脚本の中で「まさにダムが決壊する瞬間」とか「堤防が決壊」「消防車が大爆発」「ガスタンクが破裂」「タンカーが港に激突」なんてことが書けるようになるわけです。このことは非常に重要すよ!―――このような撮影技術がない時代の脚本家は誰ひとりとしてこのようなシーンを脚本に書かなかったのですから。

さて、カメラワークについての考察は今回で終わりますが、次回は「カメラ」「撮影技術」からやや話題を拡大して「トランジション」について考えてみたいと思います。トランジション(シーンの切り替え)は実はかなりシナリオライターには縁のある内容です。
今回はこれくらいで♪
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by genmuki | 2008-10-27 18:53 | シナリオ小話

シナリオ小話 第50回 カメラを知る2

前回に引き続き、脚本家なりにシナリオ上でのカメラの動きについて基本を知ろうという連載の第2回目になります。
前回は「ズーム」に注目しましたので、今回は「パン」に注目して考察していきたいと思います。

そもそも「パン」とは、カメラの首を振ることです。カメラを同じ位置に置いておきその首を上下左右に振ることは、ちょうど人間が首を動かして周囲を見る動きをシミュレートしています。『首を振る動き』―――「パン」の動きで最も考慮しておくべきなのはこのことではないでしょうか。

さて、ではシナリオ上でカメラのパンにはどのような種類が用いられるか、その時にどのような演出効果や心理効果が期待できるのかということを、ごくごく簡単に考えていきましょう。

◆横パン
 「横にパン」等と言われるこれは、言葉の通り、固定したカメラ位置からレンズ方向を水平に回転させることを言います。
 横パンは当然のことですが視聴者に見える画面が左右方向に動くことになりますので、まず大前提として映しているものの内容が変化します。つまり、現在見えているものが見えなくなったり、見えていないものが見えてきたりします。ごく当たり前のことですが、脚本家が各シーンを作る上で最も重要なのはこのことです。

・入りパン:便宜的にこう呼んでおきますが、何かが視野に入って来ることを言います。ノックの音がする、壁を映しているカメラが横方向に向くとドアのところに同僚が立っている、といった場合に用います。つまり、カメラ(=視点)を動かして初めて何かを発見する/認識する、といった作劇の技法です。この効用は言うまでもなく視聴者が「見ている主体」の視界に入り込めることですね。逆にそのシーンで視聴者に入り込んで欲しいとは思わない人物の視野を借りることは作劇のマギレを起こしますので注意しましょう。
・出パン:「入りパン」とは逆に、人物や対象がカメラから出て行くことに注目した作劇です。道端に立っているある人物を見ている、「似てるけれど違うな・・・」と視線を外す、といった場合に用いることになりますね。やはりこれも視聴者が「見ている主体」の視野に入り込む演出なので視聴者にとって心理的な緊張や特定の想像につながらない人物の視野を借りすぎるのは良くないと言えます。
・追いパン:移動する対象を追うように横パンしてくことを指します。あくまでもここでは横パンですから、歩いていく人物の横姿を目で追うような感じのシーンで用います。同時に、見ている主体は動いていないことを示します。脚本上に「~~を目で追う」という記載をした時、彼の視点になって追いパンするのか、首をグルリと巡らせる彼自身を撮るのか、といったことを考えるように習慣づけたいものですね。
・目線の先にパン:特に厳密な名前があるわけではありませんが、たとえばカメラに映っている人物が横顔である時、彼に対して出パンすることは、ただこの人物を画面から出したという効果以上に、彼の目線が向いている先のものを映したというふうになります。視聴者はこの人物の視点に入り込み、この目線の先に関心を寄せることになります。
・情景パン:これも特に特定の名前があるわけではありませんが、広々と広がる空間を視聴者に印象付けようとする時、カメラを左右に動かして示すと、固定されたカメラによる撮影よりもさらに広がりを感じる効果がありますね。海原や山並みを撮る時に多用される効果です。
・情景説明パン:ある情景や状況を視聴者に観察させ知ってもらいたい場合、たとえば広々としてあまりに質素な蔵しぶりであるだとか、散らかった部屋、荒らされた殺人現場などを示す時、フィルム編集によって個々の要素を順々に示すより、カメラを横パンしてグルリを見せる方が、視聴者はより自分の目で観察している気分にさせられる場合があります。こういった撮影技法は何が置かれているかを教えるのではなく自ら観察させることになります。

・・・あとは横パンの組み合わせによって、停車しているタクシーの車窓から道端の人物を見る時、最初は入りパンで人物を入れ(目を動かして発見)、途中で自動車は走り出すのでやや追いパン気味になり、やがて追い抜いていき車窓から見える範囲からも消えるので出パンになります。
シナリオライターはこういう指定を脚本に書く必要はまったくありませんが、実際の映像になった時にこのようなカメラの動きになるであろうということを知っておかねばなりませんね^^

◆縦パン
 「横パン」と同じく、特に厳密なくくりがあるわけではありませんが、カメラの首を垂直方向に振ることによって撮影される効果を指します。
 この効果でも基本は同じですが、しばしば特殊な心理効果を生むことがあるのでこういったものに特に注意したいものです。

・下パン:通常にカメラを下方向に振り、人物が見下ろす動きをシミュレートします。誰かが自分の足元を見て思わず立ち止まり「んっ?」としたあと、彼の視点となってカメラを下パンして地面を見下ろす、といったような場合によく使われます。言うまでもなく地面を見る行為そのものですが、日常生活の中でボクたちはなかなか明確に首を動かすほどに上や下や見ません。だからこの上下のパンを使う時には、どうしてそれをしたのかといったきっかけを含めてしっかりと脚本上に規定しておくことが重要ではないでしょうか。もうひとつの使い方として、しばしばビルの屋上から見下ろすとか崖の上から断崖の下をのぞむ場合に用いられます。こういった非日常的な場所で高さを印象付けるために下パンすることはかなり効果的です。
・上パン:「下パン」と同じで単純にカメラの首を上に傾けて写す効果です。ごく当然の見上げる動作を意味します。星や月といった上空のものに目を映す仕種で多用される基本中の基本ですが、後述の通り別の心理的な芝居につながることが多い動きです。また「下パン」の屋上や崖の場合と同様に、巨大な高層ビルや鉄塔のような構造物の高さ/巨大さを視聴者に印象付けるためにも効果的な演出です。
・下へ追いパン:下方向にパンして何かを目で追うこの演出は、ほとんどの場合、落下物を目で追いかけることを示します。手にしたグラスを思わず取り落としてしまう場合、人物を映しておいてグラスそのものが落下してカメラの視界から下へ消えてしまっても良いのですが、この「取り落とす」という現象により着目したい場合などにはグラスに追いパンする方が効果的です。床に落ちてガシャーンと割れるところまで追ったとしたらかなりショッキングなシーンになりますね。
・上で追いパン:「下へ」と同じく、上空に向かって上がっていくものを目で追う行為を示す演出です。アッと手を放してしまった風船が上空に消えていくだとか、墓前に備えた線香の煙が立ち上っていくようなものを追いパンで撮影しているものは多いはずです。
・下へパンの特殊な心理効果:この下パンは単にカメラによって下方の何かを映して提示するのではなく、行為の主体となる人物がうなだれる/落ち込む/ふさぎこむような心理効果を想起させる演出としても多用されます。込み入った何かについてジッと考える時、我々はわりと自然に自分の手をジッと見下ろしたり机を睨み付けたりと、視線を下に向けることが多いように思われます。この自然な人間の動きをカメラワークで示すことによって視聴者に同様の心理を想起させる演出だと言えますね。
・上へパンの特殊な心理効果:通常、人間の頭上には遥かに遠い空が広がっているものです。空は地面に比べるとずっと遠くにあり人間の存在からは遠い遠い場所です。この空を見上げるという行為には特殊な心理効果が働きます。それは時によって、遠い昔を思い出す、遠く離れた人のことを思う、何かしら瞑想的な思いにふける、等のように「遠い何か」を視聴者に想起させます。墓前の線香の煙でもそれを追いパンすることにより故人を偲ぶ気持ちが伝わるでしょう。ですから脚本上に「線香の煙が静かに上空へ吸い込まれて行くのである」なんて書いてあり、それをカメラが忠実に撮って下さったとすれば、わりと感慨深いシーンになるのではないでしょうか^^
・説明的な上下パン:しばしば小説で「頭の先から足の先までをマジマジと観察する」といった表現があります。これは映像脚本でも同じ書き方ができます。この場合に用いられる代表的なカメラワークが、上下パンです。ニコニコ笑う人物の上半身を映しておく、寝癖ボサボサのサラリーマンが愛想笑いをしている、カメラを下げて順々に見ていくと、シャツはズボンから飛び出しているし、靴は左右違うものを履いている、だなんて場合にはカメラの上下の動きが面白さを増します。同様に、誰かやってきた人物の足下を映しておき、カメラを上パンしてこれが誰であるかを視聴者に知らせる。足下と上半身の2シーン構成でも良いのですが、パンは時間的な長さを持ちますので、この余裕で視聴者にドキドキさせたりハラハラさせたりするというわけです。

・・・あとは横パンと同じように、上下の動きに対応させるために上パンと下パンを適宜に組み合わせることも多いように思います。
アメリカンコミックに多用されるようなコミカルな落下の表現には組み合わせが非常に重要ですね。まずは上から落ちて来るのを見て下へ追いパン、この時には物体が接近してきます。自分の眼前を通過したら、今度は落ちて行くのをやはり下へ追いパン、この時には物体は遠ざかっていきます。長大な下パンでダイナミックな落下を視聴者に提示しています。同じアメリカンコミックなら、一度上空へビューンと飛び上がったものが、次にピュウウと落ちてくる、なんてシーンもよくありますね^^
やはりシナリオライターは脚本の上に「上へパン」等とは書きません。けれど「見上げる」「見下ろす」「うなだれる」のようなことはわりとたくさん書きます。この時にカメラのパンを用いる可能性は大ですから、見下ろした先で何を見たのか、どの程度まで見上げたのか、といったことを常に意識しておく必要があると言えますね。
以前に初心者の脚本の中で「『ん?』とちょっと見下ろす」「足をのけるとイヌの糞を踏んでいた」のような表現が出てきましたが、こういうシーンでは足下の感触でかなり悪い予感がするはずですから、ゆっくり下パンして視聴者さんにもその不吉な心理を汲み取ってもらおうという意味でも「ちょっと見下ろす」ではなく「恐る恐る見下ろす」と書いた方が撮影さんには伝わり易くて良いかもしれませんよ、とアドバイスしたことが記憶に残っています。

今回は横(水平方向)へのパンと縦(垂直方向)へのパンについて、主にカメラのパンの動きは人間の首のひねりをシミュレートするものとして紹介してきました。
特に、パンをするということは動きを実際に映す行為です。そこには時間的な長さがあります。これが速ければ焦った様子やビックリした様子を伝えるでしょうし、これがゆっくりだと悠然とした様子や怯える様子、あるいは遠い何かを思う追憶の感情などを伝えることになるかもしれません。同じものを映しても視聴者の感じる心情は大きく違います。通常脚本家は「何を見た」「何がある」という情報しか書かないことも多いのですが、それを「どう見る」かといったことも意識して脚本を書くと、きっとこの記述は撮影さんに伝わって思い通りのドラマになることでしょう。

追記:カメラワークの世界では、演技主体の視野に入り込むことを「ドリー」と呼んで区別し、「ドリーイン」「ドリーアウト」のように呼んでいたりします。今回は「パン」をカメラの「首を振る動き」程度に定義して話を進めていますので、専門のカメラマンさんはそちら方面の専門書を参照されることをお勧めします★
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by genmuki | 2008-10-18 15:48 | シナリオ小話

シナリオ小話 第49回 カメラを知る1

しばらくシナリオの基礎技術とは違う路線が続いたので、今回は基礎的な話に戻りましょう。
今回は「カメラを知る」と題して、ごくごく基礎的な映像と脚本とカメラの連動について考えます。長くなりそうですので数回に分けますが・・・

そもそも「映像脚本」は、映像化されることを前提に書く台本であり設計図・デザイン画です。
同じ「脚本」を要する娯楽作品には「演劇」と「映像」がありますが、では、「演劇」と「映像」の最も大きな違いは何か?
―――それは、テレビなりスクリーンなりの、限られた虚構の「四角い窓」から見るということです。あまりに当たり前のことですが、映像脚本についての考えはここから始まらねばならないと思われます。
簡単に言うと、映像では「ズームアップ」や「パン」が可能で、現実離れした虚構の「視界」をシミュレートしているということです。映像にすることで宇宙だって見せられますし、顕微鏡の中だって覗けます。

このこととは別に、前に紹介した新井一先生やマリオン女史の著書にも、シナリオライターは必ずしもカメラの指定を微に入り細に穿ち脚本に記すべきではない、とされています。
これは、実際のシナリオの中に「F・O」(フェードアウト)だとか「横パン」だとか「空をグルリ右周りに映して」だとか、そういった記述をしなくても良いですよという話であり、脚本家というものがそもそもカメラの性質を知らなくて良いと言っているのではありません。
このことを前置きした上で―――

今回は最も基礎的な、ともすればほとんどのお人が「そんなの当たり前だ」と思っている映像の基本的なカメラワークについて紹介します。
このカメラワークについては、映画やテレビの映像はもちろん、最近とみに3D化の激しいゲームや、あるいは連続する画であるという意味では漫画の世界にも共通するものだと思います。

◆ズームアップ
最も基本的なカメラ技法であろうと思われる「ズームアップ」ですが、最も基本的ゆえに脚本家はこのカメラワークを完全に理解しておく必要があります。「寄り」とか「寄せ」、あるいは単に「ズーム」「カメラを近付ける」等とも言います。
「ズームアップ」の効果には様々なものがありますが、
・人物への注視:AさんがBCDさんの居並ぶ場所で今Bさんに注目しているといった区別を示すものです
複数の人間を集めて「誰が犯人か?」と探偵が言い当てる直前等、順番に各人物にズームしたりしますね
・心情への接近:何か重大なことを考える(語る)人物へ画面を寄せることにより、視聴者の関心を集中させ想像力をかき立てます
衝撃を受けた人物を大写しにして徐々に寄せたり、誰かが何かを思い出しそうな時にも寄せたりします
・事物の拡大:単純な虫めがねの効果です。ものの一部を拡大して視聴者によく見えるようにします
推理物なんかでは本に挟まった小さなメモにカメラを寄せて視聴者に示したりと多用しますね
・鍵の提示:「注視」に近いですが、物語の鍵となる道具や人物にジッとカメラを寄せることにより、視聴者に特別に印象付ける効果があります
逆に、後々の鍵になるような重要なものを視界に映しながらそれを素通りさせておくことにすると、その後の推理はグッと困難になってしまいます
・遠望や透視:「拡大」に近い考え方ですが、(しばしば登場人物の視点を借り)遠くに向かって目を凝らしたり遠い何かにジッと注意を向ける様を表現します
少しだけ開いたドアの隙間に寄せたり、交差点の向こうで手を振る恋人に寄せたりは、どれも人間の視界をシミュレートしていますね
また、「ズームアップ」には速さによる違いもあり、ジリジリと寄っていくようなズームアップは視聴者にそれだけの時間的な余裕を与えますので、物を考えたり推理したり心情を味わうには適しています。逆に素早いズームアップは、急接近する何かに思わず注視したり(この視界を持つ人物が)これからまさに何かに向かって行くぞという強い決意を示したりと、比較的強くて性急な事情/心情に適しています。
蛇足ですが、この「ズームアップ」が最も基本的かつ最重要である理由は、人間の目の仕組みにあります。人種や年齢により多少の差異はあるようですが、おおよそ人間はその前方170度程度の視界の中にあるもの全てを一応「視認」している上で、その一部に意識を集中することによって「認識」するからです。つまり、人間の目の「見るという行動」そのものがこの「ズームアップ」だと言えます。

◆ズームダウン
実際にはあまり「ズームダウン」の言葉は映像では使わないようで、「引き」とか「引いていく」、人によっては「視界を広げる」等と表現しますが、「ズームアップ」と正反対の技法です。
この「ズームダウン」の効果にも幾つかのものが考えられますが、
・心情の隔離:「心情への接近」の逆で、ある人物との心情的な乖離や距離を感じる時に用います
実際の距離が開いていくことを示すカメラの引きによって、心情的な動き/距離感を共感させるという情緒的な効果があります
・人物の後退;これは最も基本的な効果で、視界の主体になっている人物が物理的に遠退いて行くことを示す基礎的なカメラワークです
ドアをズームダウンすれば扉の前から後退りする主人公の動きを示し、しばしば車窓から覗いた映像で手を振る相手が段々に小さくなっていく様子も用いられますね
・関係の希薄化:言い方はやや難しいですが、ある事物や人物・場所と演者との関係が一時的に薄まることを示すものです
「鍵の提示」の考え方と逆だと思って下さい。後ろ髪を引かれながらも今は諦めるとか、集中していた何かから開放されるとかといったことになりますね
・眺望の拡大:カメラを引くということは物が遠退くのと同時に視界も広がりますので、映像内にはより広範囲の眺望が映されることになります
ある代表的な峰から続いてその周囲の山脈を紹介する時や、その島の周囲は絶海であることを提示する場合等にカメラを引いていきます
「ズームダウン」についても速さによる違いがあり、その差異は上述の「ズームアップ」の場合とそれほど変わりません。つまり、ゆっくりとズームダウンする場合には時間的な余裕があるので、それが後ろ髪を引かれる思いや「いやいやに」「ようやくに」といった具合の心情や様子を示します。

◆ズームアップとズームダウンの組み合わせ
「ズームアップ」と「ズームダウン」を組み合わせて使うこともよくあります。
たとえば、医者があるカルテをジッと見つめているシーン、カルテの中の重要な文字(しばしば「末期癌」だとか「治療断念」のような悲痛な記述)にズームアップしておきつつ、入って来た看護婦に「先生、先生」と呼びかけられてハッと気を取り直す時には、サッとカルテからカメラを引きます。通常の作劇なら、次のカメラではハッと振り返る医者自身を映しても良いのですが、ズームダウンする時間を置くことで、もしかするとこの医者が「いかんいかん、こんなことをくよくよ考えていてもらちがあかぬ。暗い顔など見せてはいられぬ」と思ったかもしれません。このような「集中と開放」の効果としてのズームアップ+ダウンはしばしば回想シーンの前後でも用いられますよね。
逆にズームダウンしておいてからズームアップする場合の例もひとつ。
「じゃあね~」と明るく手を振るわが子に送られて自宅を出るシーン、カメラはやや穏やかにズームダウンして遠ざかる距離感を作り上げていきますが、一転、子供の抱えるヌイグルミに急速にズームアップ、なんてことも。もしかすると「取り上げたはずのヌイグルミをどうして持っているんだ!?」という驚きかもしれませんし、「ややや、いつの間にそんな新品のヌイグルミを!」かもしれませんが、とにかくハッと驚く心情を強く印象付けます。単にズームアップだけするより、一度ズームダウンしかけておいて、と組み合わせて考えることで効果が強まるケースです。
他の組み合わせに、ある機械基盤のABCの各部品に次々とズームする(「3つのボタンが付いているがどれが正解だろう?」)、視界に対してズームアップとズームダウンを繰り返す(頭がグラグラする・視界がぼやけることのややコミカルな表現)、事物や人物に対してズームアップとズームダウンを繰り返す(「このケーキ食べようか食べまいか」「彼女に言おうか言うまいか」)等、色々な使い方が考えられると思います。

今回はレンズを備えた機械であるカメラの、最も基本的な「ズーム」についてのみ紹介しました。
しかし誤解がないようにご注意下さい。脚本家は「カメラを引いたり寄せたり」とシナリオ中に書く必要はありません。原則、「視点が定まらない」とか「頭がグラグラする」とか「○○に注目する」といった書き方をすればOKです。ただ、『自分の書いたその表記や指示が実際に映像化できるものなのかどうか』『それは具体的にどういう映像が考えられるのか』そして『(そのようなカメラワークから構成される実際の映像が)ドラマ内容を的確に伝える行動/構成になっているのか』といったことは考えねばなりませんから、やはりカメラについて知っておくことは重要なのです。
太郎さんはAを見る、Bを見る、Cを眺める、Dを見付ける、とト書で書いた時、ズームアップ、ズームアップ、ズームダウン、ズームアップ、それは何だかちぐはぐでおかしなことになってはいないか? ―――最低限、それくらいの想像力を鍛えるためにも。

※今回紹介した中の「ズームアップ」や「注視」「隔離」等は全て正式な専門用語だということではありません。あくまでも個人的に定義/記載しただけの言葉であり、これらの内容に定まった術語やその統一定義はないと思います。(もしあるのであれば是非とも教えて下さい^^;)
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by genmuki | 2008-10-09 15:33 | シナリオ小話