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シナリオ小話 第64回 アイディアとプロット

久しぶりに、フランシス・マリオン女史の『シナリオ講話』をひもといて、非常に鋭敏な一節について考えてみたいと思います。
以下のことは、しばしば、小説家と脚本家の根本的な相違点を明らかにするのだと思われます。

『シナリオ講話』第3話は「プロット」と題されており、その冒頭は次の通りです。

「ストーリー・アイディアとプロットとは異なったものです。アイディアはプロットの核心ではありますがしかしアイディアにプロットであることを期待してはなりません。それはちょうど粘土の塊に対して、これを材料に模造さるべき姿形を示すことを期待してはならないのと同じです。」
(仮名遣いは現代語に直しました。以下同様)

そして、以下、やや中略抜粋しますが、

「前に進むまえにお話ししておきたいのは、映画ストーリーを、小説類の他の形式に○○して用いられる観点と異なる観点から考察するのが有効であるということです。皆さんは視覚的表現のためにストーリーを準備されるわけで、従ってスクリーンの上に現われるように皆さんのストーリーを視覚化することが必要です。」
(○○部分は旧字活字で判読できませんでした;;)

「疑いもなく、大衆映画としての可能性をプロットにもっていながら、撮影所の読書係にシーンを思い浮べさせるほど明瞭な画面を提供しないために、拒絶されるような映画ストーリーが沢山あります。ですから、皆さんはむしろストーリーを書くより、シーンに組立てることを先ず考えなさい。或るシチュエーションにおかれた人物を描くことを考えなさい。ストーリーは言葉によって表現しなければなりませんが、それは結局読まれるものでなく見られるものです。ストーリーのなかにあってもスクリーンのうえに表現できないものは無用です。ストーリーは、スクリーンの上で、構成され若くは視覚化されるのです。物語られるのではなく、戯曲化されるのです。」

このような主張が、「プロット」冒頭部分に相当します。
以上のマリオン女史の指摘はは、ボクが常から、脚本とは技術の結晶であって、決してアイディア/思い付き/センスではないのだ、と考える根幹にあるものでもあります。

・彼は彼女に憎しみを向けながらも愛してしまうのだ
・彼女は次第に彼に心を引かれるのだ
・彼の中に芽生えた義憤の心は事ここに至って迷いを生じるのだ

―――そういった言葉は、小説のそれです。論述のそれであり、述懐のそれです。
しかし、脚本とは、そういったものではありません。ご存知の通り、目的とすべきものは、映像となった時点で、実際の俳優(アニメの場合はキャラクター)により、“具体的”なシーンの連続を通じて、最終的に視聴者に届いた内容であります。

しばしば「プロット」と称して、誰某は誰かのことを好きになる、とか、次第に恋に落ちる、といった記述の塊を書いて寄越す方がいらっしゃいますが、それは、上述のマリオン女史によると、単なるストーリーアイディアでしかありません。もっと言えば、それは大雑把な目標を示したものであって、脚本におけるプロットではないし、そもそも脚本でもなければ、場合によってはストーリーですらありません。―――漠然としたイメージであり、目的、夢想でしかないのでしょう。
これらを、具体的なやり取りを通じて映像化し、視聴者に届けるために“翻訳”するのが脚本家の仕事に他なりません。

常に、具体的なシーンを描こう、そこから喚起される感情とは何かを帰納的に考え引き出しに詰めよう―――感情とその動きを具体的で現実的な事件の羅列でもって連想的に描き出そうとする姿勢こそ、脚本家のそれです。
逆説的に言えば、「こんな風になれば面白いのにな」と考えることは他の誰でもできるということですし、それが脚本家やプロットプランナーの仕事などではないということです。

しばしば、「シナリオの原案はあります。これを書いてくれるサブシナリオライターを募集します」などという商業/同人の求人を拝見することがありますが、こういった方々は、残念ながら、“脚本”の何たるかを未だにご存知でないのでしょう。
その無知を笑うのではなく、脚本家として誠実にその要求に応えることができるよう、精進したいものです。そして、胸を張って言うべきであるのは―――貴方の示したのは単なるアイディアであり述懐であり目的意識であって、それはシナリオでもプロットでもない、その一言です。そして次に、その思いを作劇し具体化し視聴者に届く形にせしめるのは私の仕事です、ということに他なりません。
そうでなければ、いつまで経っても、脚本家は、示された原作/アイディア/ストーリーを、ただ単に膨らませ代書するだけの文字屋に堕すでしょう。―――コンセプトデザイナーを軽視するわけではありませんが、技術家としての脚本家は、明らかに別種の世界を観ていなければなりません。

初出 Mixi 拙連載より 2009.10.31
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by genmuki | 2009-12-17 18:46 | シナリオ小話